ミスiD2018 文芸賞

No.107
麦島汐美ムギシマシオミ
1995年8月21日生まれ (22才)
155cm / B90 W55 H86 / 制作者 /
自己紹介PR
(メモ)ヴァージニア・ウルフの夫の様に、死んだ後私の日記を勝手に見せる人とは結婚しないようにすること。私の言葉で語ること。これは2016年9月の日記。
(日記)もう、どうしようも無くなって、降りるべき中目黒を見送った。各停和光市行きは混んでもいないけれど空いてもいない。
まず、携帯の電源をオフにする。
美味しいものをたらふく食べなくていけなくなって新宿三丁目で降りた。B3出口から伊勢丹の上まで登って、買いもしない美しくて価値のあるモノの間をフラフラしたりもしたかったけれど、フレンテに真っ直ぐ。
ファーストキッチンのかわいいお姉さんがかん高い声でクーポン券を配っていた。サンバイザーのオレンジが暗いビルの入り口では虚しい。

地下のクレッソニエールに人と来た事はない。誰かと一緒でなければ入らない店があるのと同じで、私はここに一人で入り一人で食べ一人で出たい。
壁に下がる磨かれた銀のフライパンに、作る人の色が動きに合わせぼんやり。テーブルクロスはしっとりした赤。隣の席のおじいさんとお姉さんは次に行くホテルが駅の東口側か西口側かで揉めていた。多分東じゃないかなと思った。お姉さんの赤茶い髪はトップがふんわり立ち上がって、睫毛もすっと長いのが斜めからでも分かる。何と!日曜日のお昼時、なのに、だから、新宿が大好きだよと思った。

若鶏の香草パン粉焼き赤ワインソース、サツマイモのポタージュ、ラム酒漬けパウンドケーキ生クリーム添え。
どれも美味しかったけれどラム酒に浸かったケーキがプリンみたいにふるっとしていてとろけた。ポタージュのお皿は脚高の陶器で、皮まで一緒で甘くて美味しかった。
満足な記憶の片隅、新人っぽいボーイの男の子がシェフから酷い言葉で静かに怒られていて、彼が何度も小さく謝る。


その後ずっと歩き続けた。もう今日は眠る。体の内側も外側もフル稼働させるのは疲れるけど気持ちいいね。身体の生きてるは凄かったけど社会的には死んでいて、それでも気持ちいいことは人には言えないこと。
(2017 初めまして)表紙絵の編集や言葉について考えながら本を作っています。tumblrには撮ったものを載せています。もう21才だけど、社会に上手く適合出来ないけれど、世界の確かな煌めきを捉えて何かを作ったりする為に(私を暗闇から掬い出してくれたアイドル達のように)生きていたいです。



好きな映画:『ブリュッセル 1080 コメルス河畔通り 23番地 ジャンヌ・ディールマン』

好きな本:『灯台へ』

落ち着くと思う場所:Bunkamuraル・シネマ ふかふかのシート

あなたにとってのアイドル:斉藤由貴ちゃん

特技:休憩しないこと

好きなアーティスト、音楽:juice=juice

好きな言葉:支配しない
審査員のコメント
青山裕企
低画素すぎる写真たちを見せてもらいましたが、そこらの写真家志望の人たちよりも、
うまかったです。自覚ないかもですが、粗い写真だから良かったかもしれないです。
表現者の道にはっきり向いてると思いますので、どんどん撮って書いて表わしていってください。
大森靖子
写真から女の子への愛情が伝わって泣きそうになりました。女の子の女の子を撮る時の愛情って、性衝動よりも生々しく業があるのに、撮られる側は無防備だからとてつもない仕上がりになっていて、色味に生活感もあり、変に盛った感じじゃないのに魅力が何倍も伝わるので素晴らしいです。たくさんみてみたいです。
大山卓也
聡明な人だと思います。写真や文章など自分なりの視点で世界を切り取るセンスにも長けていて、これからの活動が楽しみです。
菅野結以
写真がめちゃくちゃ良いのでびっくりしました!文章もとても素敵で、全体的に筋が通った美意識を感じます。もっと色々作品を見てみたい!
小林司
文章にも写真にも、穏やかな海のような愛がある。そしてそれがちゃんと他人に向けられている、というのがが彼女の「文芸賞」の理由です。
いま、写真も文章もほとんどがエゴの発露になっていて、自分をどう好きかどう嫌いか一回まわってどう好きか、みたいなことを、それぞれのやり方で世界中に日夜勝手に垂れ流しに発信してる世界です。疲れるよねそりゃ。そもそも日本は「私小説」の国なので、その傾向も強く、それはしょうがないことだと思うのですが。
そんな中で、麦島汐美の書く文章や写真は、とても優しい。とても穏やか。
たとえば写真も、とても上手だなあ、可愛く撮るなあ、というカメラマンでも、それは「自分は女の子を可愛く撮れるカメラマン」であることを伝えたいための写真になってることも、多々あって。「おれのレンズの中でこの子は最高の可愛さを見せられる」という、まあオナニーのようなもので。
麦島汐美の写真には、そういう思い込みやエゴが、スポンとない。自分を暗闇から救ってくれたミスiDやアイドルや映画や本に恩返しがしたい、というシンプルなエントリー理由と「私は作ることしかできない人間」という静かな覚悟だけが静かにあって、それは見ていてとても気持ちがいい。
最終面接で見せてくれた「灯台」というZINEにも、五味、あおの、もかろん、ナビ、と言ったミスiDの子もたくさん撮ってるんだけど、だいたいにしてまずめちゃくちゃ画質が悪い。たぶんテク自慢のツイッターカメラマンならこんなひどい画質でプリントするなんて考えもしないよ。でも、どの写真の最高にその女の子のよさが伝わるのです。空気まで。麦島汐美の優しい目線が、穏やかなメンタルが、写真の隅々まで充満して、ほんとに気持ちいいのです。だいたいね、彼女たちはもちろんみんな魅力的だけど、撮るならもっとわかりやすい華のある子、完成されたビジュアルの子、モデルみたいな子を撮ったほうが楽だと思うんですよ。なのに、この人選ですよ。最高じゃないですか?
「灯台」には彼女の日記のような随筆も載っていて、正直これが素晴らしいのです(なにが素晴らしいってディティール描写がとくに!)。要するに、文も写真も、麦島汐美が作り出す表現はどれも、適度なざわつきを残しつつ、日本の私小説文学や私小説写真の系譜とはまったく離れて、無私というか、ちゃんと客観性に支えられてて、へんたたとえだけど「外国文学」のように、いい感じの気持ち良いのです。
これは相当な力量だと思うのです。
乃木坂の橋本奈々未似の知性をちゃんと感じさせるルックスもいい。
小倉青というこれもとても素晴らしい文章を書く小説家志望もいます。出版社主催オーディションらしく、ぜひどんどん時には手を取り、時には個で、この才能たちを束ねて何かを作り出していってほしい。一緒になにか作りましょう。
佐久間宣行
面接で見せてもらった文章と写真がとても良かった。そしてこの選考を通じて知り合った女性たちをどんどん自分のフィールドに引き込んでいく行動力もいいですね。ミスiDを最大限に利用してるその姿勢、素晴らしいと思います。どんどんやってほしい。